「こういうものを作りたい」とイメージすることがデザイナーの仕事なら、イメージしたものに実物をいかに近づけられるかが職人の仕事。そのやりとりを何度も何度も重ねながら、檜風呂は作られました。「木は年輪の形、温度や湿度に対応して動こうとします。どんなに工学に基づいた作業を施そうとも、人間の考えたちょっとした知恵だけでは、300年生きてきた木の動きを止めることはなかなか出来ません。難しかったのは、三次元の部材を組み上げる作業と、ステンレス製のタガを部材の中に通して締め上げる作業の2点。詳しくは話せませんが、せっかくの画期的なデザインが壊れないように、かつ各パーツのつなぎ目に隙間が できたりしないよう発想を転換した技法で臨みました」
ベースになる素材に布を貼り、乾いたら漆で平らにし、さらに乾いた上で磨きをかける作業を、昼夜を問わず行いながら約1ヶ月という時間をかけて製作をした漆風呂。「漆には“美しさ”だけでなく、どこにでも塗ることができ無尽蔵な素材であること、抗菌作用があること、 耐熱性が強く800°Cの熱にも耐えられるなどの特長がいくつもあります。これらの特長は浴槽を作る上でも、大きなメリットになりました。この浴槽で取り入れたのは“乾漆工法”と呼ばれる工法で、古来から仏像の製法として知られています。ベースには発泡ウレタンを用いその上に布と漆を手作業で塗り重ねることで、漆独特の光沢感はそのままに約30kgという軽量化を実現。移動のできる浴槽ができあがりました」
神社仏閣の建造や仏像の製作に古くから重用されてきた檜素材。木曽の山から切り出された樹齢300年の無垢の角材、中でも柾目、無節の20本から、50個の側面パーツを削り出し、それらを組み合わせて製作しました。
日本を代表する伝統素材の漆には抗菌作用があり、800°Cを超える熱にも堪えられる非常に強い素材で、風呂にも最適です。本作品では、その漆の特性と最大限に生かしながら伝統的な工 法製作しつつ、ボディに発泡ウレタンを使うことで保温性と軽量化を実現させました。